幼いころ、ピーター・ンジェリはナイロビの首都にある広大なソウェト・スラムの中を、母親のために薪を集めるために長い距離を歩いていました。母は息子と9人きょうだいのために料理をするためです。
薪を持ち帰ると、母は食事の準備のために火を起こします。でも、すぐに台所が濃い煙でいっぱいになりました。「母は咳をして、涙を流していました」とンジェリは振り返ります。「小さいころの僕には、なぜ母がむせているのかわかりませんでした。でも友達の家に遊びに行っても、どこも同じ状況でした。」
のちになって、やっとンジェリは薪を燃やすことと呼吸器病の関係を知ることになります。「この燃料を使って料理するのは、1時間にタバコ100本吸うのと同じくらい有害だと計算されています」と、ケニア医療研究所(KEMRI)のサム・カリウキ所長は語っています。
でも、他に使える燃料やエネルギーが手に入らない場合、どうすればいいのでしょう?例えばケニアの北東部では、88%もの家庭が深刻なエネルギー貧困とされています。でもこれは決してケニアだけの問題ではありません。世界人口の3分の1、約24億人が今も清潔な調理法を利用できずにいる、と世界保健機関(WHO)が発表しています。
ンジェリの母は今72歳で、今もソウェトで暮らしています。でも、23,000人もの低所得層の女性たちが、毎年家庭内の空気汚染でケニアで命を落としています。これはかなり控えめな数字だとンジェリは考えています。
「私たちにはすべての死因を把握するインフラがありません」と彼はGlobal Citizenに話してくれました。「この数値は氷山の一角に過ぎません。ソウェトでも実際に何人かが命を落としました。学校の給食係として働いていた女性が亡くなったこともあります。人々は『熱いコンロのそばにずっといたから』と言っていましたが、科学的に見れば、一番の要因は室内の汚染だったんです。」
世界中を見ても状況は深刻です。毎年320万人もの人が、家庭内の空気汚染が原因で死亡しています。しかも家事の負担を担う女性や子どもほど影響を受けやすいのです。
積極的でチャレンジ精神を持っていたンジェリ少年は、ソウェトの人たちのためにこの深刻な問題を解決しようと決意しました。その後、ケニヤッタ大学、ケンブリッジ大学で優秀な成績を収め、プラスチックごみをクリーンエネルギーに変える技術を特許化。さらにMega Gas Alternative Energyを共同設立しました。これは低所得層の家庭が手軽に使える、清潔で安価な調理エネルギーを届けることをミッションとするクリーンテック系のスタートアップです。今ではケニア国内で10,050以上の家庭が利用しています。
2023年Waislitz Global Citizen Award受賞者、Mega Gas CEOのピーター・ンジェリ。
Mega Gas Alternative Energyは、健康問題だけでなく、ナイロビのプラスチックごみ問題にも取り組んでいます。ナイロビでは毎日480トン以上のプラスチックごみが発生しているだけでなく、今年2月のClean Up KenyaとWildlightがChanging Markets Foundation(CMF)のために実施した調査では、EU諸国だけで年に3,700万点もの「不要なプラスチック衣料」がケニアに捨てられていることも明らかになりました。
ソウェト近くのジャカランダ広場は子供の遊び場だったが、今はプラごみだらけに。ピーター・ンジェリは、若者と共にごみ清掃し、埋立地のプラごみを工場でリサイクルする方法について話し合った。
「これは本当に大きな問題です」とンジェリは言います。「プラスチックに有害物質が付着したものに子どもたちが触れると、深刻なやけどを負います。本来農業に使える土地もプラスチックごみで台無しです。湖や川も汚染され、生態系が破壊されてしまいます。」
プラスチックごみのもう一つの問題は洪水の加速です。今年3月に大雨が降ってケニア南西部で鉄砲水が起きたときも、排水溝はすでにプラスチックごみで詰まっていました。「排水溝が詰まっているので、家の中まで水が入ってきてしまいます。10段階評価でどれほどひどいかというと、今ここは9ですね」とンジェリが説明してくれました。
Mega Gas Alternative Energyでは、ソウェトの女性たちにプラスチックごみの回収をお願いし、安定した収入源を作っています。なぜ女性なのか? 「アフリカ経済を支えているのは女性だからです」とンジェリは語ります。「女性はこの国の 土台です。子どもを育てたり、お店を経営したり、ほとんどの経済活動の担い手です。女性をエンパワーすれば家族も健康になり、地域全体が元気になるんです。」
こんなふうにコミュニティとの深い関わりがあるからこそ、Mega Gas Alternative Energyは成功を収めています。もともとソウェトの女性たちにとって薪拾いはおしゃべりや交流の場でした。なので個人用ガスボンベの支給ではなく、コミュニティキッチンをオープンして、女性たちが集まって話せる場所を残しました。
Mega GasとTujisaidie Self Helpグループのメンバーが、商品説明とサービス向上に向けた意見交換会を実施。
「もしこのコミュニティの中に入り込まなかったら、きっとこの発想は生まれなかったと思います」とンジェリは言います。彼らはコミュニティの人たちや、村長・長老などの意見を聞くために隔週で集会を開き、みんなの“欲しいもの”に合わせてベストなものを提供しています。
Mega Gas Alternative Energyに息づく価値観は、ンジェリが子どものころ家族から教わったものです。「9人きょうだいの家族で育ったことは僕にとってとても大切でした。兄弟姉妹6人に助けられて、レジリエンス、チームワーク、コミットメント、集中力、準備の大切さを学びました。これらを会社の価値観に活かしています。」
ピーター・ンジェリは、今年のWaislitz Global Citizen Grand Prize Awardの受賞者で、10万USドルの賞金でさらに5,400人の家庭に支援が広がろうとしています。
毎月たくさんの家族に支援が届いています。Waislitz Global Citizen Awardsは、極貧やその根本的な原因を終結するために尽力している個人の素晴らしい活動を称え、毎年合計で25万ドルの賞金が贈られるアワードです。この賞や今年の勝者達について、もっと詳しくはこちらからチェックしてみてください!.