Global Citizenが、ニューヨークで多くの人の現金保釈廃止を実現した方法

著者: Daniele Selby

Derek Goulet/Flickr

カリーフ・ブラウダーさんは、2010年にわずか16歳でバックパックを盗んだとして告発されました。無実を主張していたにもかかわらず逮捕され、保釈金 (その自由の対価)は3,000ドルに設定されました。その金額は家族にはとても支払えないものでした。

その結果、ブラウダーさんは、保釈金を払えない全米の数十万人もの人と同じように、留置所で長い時間を過ごさざるをえませんでした。ニューヨーク市のライカーズ島は劣悪な扱いで悪名高い施設であり、ブラウダーさんは有罪判決を受けることなく、数年間そこに収容されていました。裁判所の過剰な負担や多くの遅延のため、彼の事件が裁判に近づくまで3年もかかりました。30回以上も法廷に出廷した後、ついに地方検事局が告発者と連絡が取れなくなったため、事件は棄却されました。検察は「裁判で立証責任を果たすことができなくなった」と述べています。ブラウダーさんは2013年6月5日に釈放されましたが、その2年後に自ら命を絶ちました。


この悲劇的な出来事は、全米の多くの人々にとって初めて、現金保釈の仕組みと、貧困層が事実上罰せられるその仕組みを知るきっかけとなりました。

2015年3月、ニューヨーク、ライカーズ島の強化管理棟の独房。
Image: Seth Wenig/AP

ブラウダーさんの話をきっかけに、ゾーイ・フエンテスさんも現金保釈制度について初めて知ったといいます。ニューヨーク州マホパック出身の17歳の彼女は、そのニュースに「とにかく衝撃を受けた」と語りました。 「本当に唖然としました。自分もニューヨーク出身なのに、こんなことが地元で起きているなんて信じられませんでした」と、彼女はGlobal Citizenに語っています。「保釈金が払えないだけで3年間も牢屋にいなければならなかったなんて、本当に信じられませんでした」 Global Citizenで行動を起こしたニューヨーク州立大学パーチェス音楽院の学生であるフエンテスさんは、生まれ育ったニューヨーク州に「がっかりしました」と話し、ブラウダーさんと年齢が近かったため、より強い衝撃を受けたと明かしました。 「ニューヨークは自由な州だと思っていましたし、みんなのために立ち上がる場所だと思っていたのに、それを見過ごしてしまったのが悲しいです」と彼女は語りました。 フエンテスさんは自らを活動家だと考えており、小さい頃から地域や国、世界の人たちのための支援を行うことに情熱を持ってきたそうです。 「Global Citizenでさらに自分の声を発信し、みんなに影響する課題について知ることができています。Global Citizenは私にとって、活動家のための「道具箱」のような存在です」と彼女は付け加えました。 フエンテスさん自身は直接現金保釈で影響を受けた人を知らないものの、困っている人たちと一緒に声を上げて変化を求めたいという強い想いを感じたといいます。ブラウダーさんの死から3年後の2018年、彼女はGlobal Citizenと共に、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事に現金保釈の終結を直接求める機会を得ました。 その年の8月、Global CitizenはVera正義機関、ロバート・F・ケネディ人権センター、JustLeadershipUSA、コミュニティ活動家とリーダーの声(VOCAL-NY)と連携し、ニューヨーク州に現金保釈廃止を呼びかけました。フエンテスさんや9,400人以上のGlobal Citizenが、アンドリュー・クオモ知事のオフィスに電話をかけ、この運動を後押ししました。

「保釈金が払えないだけで、3年間も牢屋にいなくてはいけなかったなんて、本当に信じられませんでした」

「(電話したあと)すごく力が湧いてきました」とフエンテスさんは振り返ります。「自分が課題解決のために動いていることを感じたし、私ひとりの電話でも、みんなで行動を起こせば、その声がきっと届くと信じています」

ブラウダーさんに起きたことは、ニューヨークだけの話ではありません。アメリカは世界人口の5%以下の国民しかいないにもかかわらず、世界の全被収容者の約25%を収監しています。アメリカでは約230万人が拘留・収監されており、そのうち約46万人はまだ有罪判決を受けていません。

しかし彼らは、保釈金を払えないために、裁判日を待ちながら、または多くの場合司法取引を強いられ、留置所にとどめられています。

逮捕・起訴されると、初回の裁判で裁判官が保釈金を設定するかどうか、そしてその金額を決めます。本来この制度は出廷を促すためのものですが、現実には貧困に苦しむ人を罰する仕組みとなっており、「貧しいこと」が罪になってしまっています。

2015年7月、ニューヨーク、ブルックリンの裁判所・刑務所近くの保釈金店の看板。
Image: Kathy Willens/AP

重罪の保釈金の中央値は1万ドルです。ただ、収監された男性の約60%、女性の70%以上は、収監前の年収が2万2,500ドル未満で、現金保釈は特に貧困層や有色人種コミュニティ(どちらも同じ人々が属していることが多いです)に大きな影響を与えている問題です。

保釈金を払えない人は、有罪判決前で無実が前提にもかかわらず、数日から何年も留置されることがあります。その間に職や住まいを失い、裁判を待ちながら自由の身で準備できた場合よりも、自分自身の弁護が十分にできなくなってしまいます。

専門家によると、多くの低所得家族にとって、現金保釈こそが刑事司法システムに巻き込まれる原因になっています。

長期間、保釈金を払えずに勾留されることで、無実でも早く刑務所を出たいがために罪を認めてしまうケースも多いです。一度システムに入れば、刑事記録が一生つきまとい、貧困の連鎖から抜け出せなくなります。

ラッパーでGlobal Citizenアンバサダーでもあるフレンチ・モンタナは、2018年9月にこういった課題に光を当て、ニューヨーク市で保釈金が払えないために収容されている人々を釈放する「Mass Bail Out」運動に注目を集めました。彼はブロンクスに収監中の女性のために保釈金を支払うことで、この動きに参加しました。

「誇り高きGlobal Citizenアンバサダーとして、この保釈プロジェクトが求める変革の重要性を強く感じています」と彼はビルボードに語りました。「ブロンクスの仲間を含め、全米の何百万人の人に影響を与えうる、このキャンペーンを応援できることを嬉しく思います。変化を呼びかけるためにプラットフォームを活用するだけでなく、この問題は自分にとってとても個人的な問題です。親友のMax Bが刑務所で75年もの刑期を過ごしているので、不公平な収監に苦しんでいる方々へ心から寄り添いたいと思っています」

フエンテスさんや何千人ものGlobal Citizenの声に応じ、アンドリュー・クオモ州知事は2018年のGlobal Citizenフェスティバル(ニューヨーク、セントラルパーク)でステージに上がり、現金保釈制度を撤廃することでニューヨークのこの不平等なシステムに対応すると公約しました

「アメリカでは、有罪が証明されるまでは誰だって無実です。それは黒人でも白人でも、裕福でも貧しくても同じです」と彼は語りました。

「今年こそ現金保釈制度を完全に終わらせます」と、彼は集まった人々に伝えました。


Global Citizenアンバサダーのアッシャーもこの課題に声を上げ、2019年1月にはビデオメッセージとTwitterでニューヨーク州の議員たちに直接訴えました。

その数日後、クオモ知事は3期目をスタートしました。州議会での一般教書演説で彼は、現金保釈廃止への決意を新たに表明しました。

「刑事司法制度を改革するために、現金保釈を完全に撤廃しなければなりません。そして迅速な裁判、証拠開示の改革、そして平等権修正憲法も成立させるべきです」と彼は語りました。「立ち上がり、実行しましょう。私たちが道を切り拓くのです」

Global Citizenは、知事に対して次の四つの重要ポイントを改革案に盛り込むことで「先導するよう」求めました:現金保釈の撤廃、裁判前の収監者数と人種格差の削減、無罪推定と適正手続きの尊重、そして州が公判前手続きの費用を負担することです。

合計3万4,753人のGlobal Citizenが、クオモニューヨーク州知事に現金保釈廃止を求める請願に署名しました。

この後、3万4,753人のGlobal Citizenが、この4つの重要ポイントを知事の改革案にきちんと反映させることで、アクションを継続するよう求める請願に署名しました。そして1月にその請願がクオモ知事のオフィスへ届けられました。


俳優・活動家であるベンガ・アキナベもこの引き渡しに参加しました。当時、彼は人種的不正義と刑事司法の課題を描いた作品である、ブロードウェイ版アラバマ物語でトム・ロビンソン役を演じていました。彼もGlobal Citizenとともに行動を呼びかけ、2月には引き続き保釈制度の改革に向けて行動を起こすよう訴えました。

3月、州議員たちが知事の予算案に盛り込まれた改革案を検討している最中、ラッパーでありGlobal Citizenアンバサダーのコモンも、現金保釈を終わらせるべきだと強調しました。

コモンは、2018年10月にブルックリン拘置所でGlobal Citizenと共に、保釈金を払えない女性の保釈を支援しており、Global Citizenたちに引き続き声を上げ、行動を続けてほしいと呼びかけました。


声の広がりとともに、ニューヨークの市民や支援者の呼びかけが実を結び、歴史的な司法改革が2019年3月31日に成立しました。州知事と議員たちは、ほとんどの軽犯罪や非暴力犯罪で現金保釈の使用を廃止する法案を予算法案として成立させました。

俳優・ラッパー、Global Citizenアンバサダーであり、刑事司法制度改革を訴えるコモンが、昨年ニューヨークで現金保釈廃止運動に参加し、保釈改革を後押しする様子。
Image: Ryan Gall/Global Citizen

「本当に素晴らしいと思いました。クオモ知事を誇りに思い、抱きしめたいくらいでした」とフエンテスさんは語りました。「私たちの声や、ニューヨークの多くの人たちの想いを受け止め、一緒になってこの問題に働きかけてくれたことを本当に嬉しく思います」

もちろん、最終的に成立した法案は、クオモ知事や活動家が求めた水準までは十分改革されていませんでしたが、大多数の被告人にとって司法のコストを下げる大きな一歩となりました。

「これは、これまで保釈金が払えずに困っていた何千人ものニューヨーカーたちが、その壁に悩まされずに済むという意味で、本当に大きな前進です」とVera正義機関のプログラムディレクター、インシャ・ラフマンさんは法案可決の際、Global Citizenに語っています。

この法律は2020年1月1日から施行され、1万6,000人(ニューヨークの未決勾留者1日の平均数であり、ほとんどが保釈金を払えなかった人たち)が直接恩恵を受けるとされています。そして、この流れを作ったのがGlobal Citizenの力強い行動だったのです。

ラフマンさんは「Global Citizenはその粘り強い提言と、リーダーや政策決定者、社会活動家、アクティブな若い世代の橋渡しをする独自のパワーで、ニューヨークにおける貧困犯罪の終結に向けて不可欠な存在となりました」と話しています。

「2019年のニューヨーク州議会で、Global Citizenが保釈制度改革を中心課題に据え、クオモ知事の公約をフェスティバルのステージで引き出し、さらにニューヨーク中のGlobal Citizenに働きかけて知事や他の選挙で選ばれた議員たちに責任を果たすよう訴えました」と彼女は語りました。「ニューヨークでは多くの団体、特にGlobal Citizenの働きによって、今年の立法会期で国内で最も歴史的で変革的な保釈金改革法案を成立させることができました」

2018年9月29日、セントラルパークで開催されたGlobal Citizenフェスティバルでアンドリュー・クオモ知事が登壇する様子。
Image: Mengwen Cao for Global Citizen

ニューヨークで可決された法案は、活動家たちにとって大きな勝利ではあったものの、刑事司法制度における経済格差による勾留や不平等を完全になくすためには、まだやるべきことがあります。現状でも、特定のケースでは現金保釈が適用される可能性が残っており、起訴されていてもまだ有罪が確定していない人が、一部の重罪や重大な容疑の場合には保釈金を設定され、支払えなければ身柄を拘束され続けるリスクがあります。

一人ひとりが声を上げることで生まれる力を実感したフエンテスさんは、これからもこの改革を推し進めていくつもりだと話しています。

「Global Citizenであるということは、自分や家族、友人だけでなく、自分のコミュニティ、国、そして世界や全ての人類に影響する課題にも関心を持つことです」とフエンテスさんは語りました。「みんなで力を合わせて正しいことのために立ち上がらないと、何も前には進みません。だからこそ、現金保釈に反対し、貧困を終わらせるために立ち上がる必要があります」