独立系メディアがない世界を、想像することは恐怖しかありません。権威主義的な政府がジャーナリストに「これを書け」と指図したり、権力者が大事な調査をつぶしたり、人の命を救う情報が世の中から隠されたり。しかも現実は、世界の50%以上の国で、ジャーナリズムを取り巻く条件が「悪い」と見なされています。メディアが世界中で脅かされるなか、公共の利益のためのメディアの未来そのものが問われています。
かつては豊かな国との国際協力に支えられてきた低・中所得国のメディア組織は、年々資金が減っています。そして高所得国のメディアも、同じ壁にぶつかっています。昨年は、米国のNational Public RadioとPBSが資金を失い、それが国内の何千ものローカル局に影響しました。特に打撃が大きかったのは地方にある局です。ヨーロッパでも各国政府が公共メディアの予算を締め付け、メディアは人員削減、取材範囲の縮小、あるいは得意としてきた調査報道の中止に追い込まれています。同時に、技術革命が、何百万人もの人が世界と関わり、学ぶ方法を根本から変えつつあります。
「独立系メディアは、プラットフォーム化の新時代、収益の減少、そしてジャーナリストが活動するには不健全すぎる環境のなかで、根本的に苦しんでいます」──国際公共利益メディア基金(IFPIM)のディレクターで、ジャーナリスト・イン・レジデンスでもあるカディジャ・パテル氏はGlobal Citizenにそう話しました。「IFPIM以前は、ここまで深い理解にアクセスして、そこに対する解決策を提示できる組織が実質的に存在しませんでした」
2022年に設立されたIFPIMは、公共の利益のためのメディアが直面している現実的で、しかも存続に関わる脅威に立ち向かう必要から生まれました。この基金はすでに、変化する世界への適応を目指す144の独立系メディアを支援し、主に低所得層や地方の読者・視聴者に向けて活動する組織に、8,600万USドル以上を投じてきました。
ジャーナリストの報酬を払い、調査を立ち上げ、人々に届く新しい戦略を試せる資金があれば、独立系メディアはローカルジャーナリズムを生かし続けることができます。しかし、IFPIMの助成金が支えになる一方で、広告収入の減少、大規模言語モデル、政府の監視、そして今のニュース発信をこれまで以上に難しくしている数々の現実が、消えるわけではありません。
Global Citizenは、過去1年以内にIFPIMの助成を受けた2つのメディアに話を聞くことができました。読者を惹きつけ、情報を届け続けるためにどんな工夫をしているのか、そして人工知能(AI)の時代においてもローカルジャーナリズムがなぜ重要なのかを聞きました。
El Surti:パラグアイ
SNSをスクロールしていると、Canva風のテンプレートなインフォグラフィックの海の中で、El Surtiの鮮やかでイラスト重視のInstagramアカウントが目を引きます。パラグアイのこのメディアは、コンテンツがどう読者に語りかけるかを重視していて、読者の多くは30歳未満、日常の多くをオンラインで過ごしています。
「私たちの強みは、惹きつけるビジュアル・ジャーナリズムです。従来のメディアがなかなか届かなかった形で、若い読者とつながれます」El Surtiの共同創業者で戦略ディレクターのハスミン・アクーニャ氏はGlobal Citizenにそう語りました。「ニュースを“手に取りやすく”、理解しやすく、そして読者がコミュニケーションしているプラットフォーム上でシェアしやすくしたいんです」
その結果、El Surtiのチームには記者や編集者だけでなく、イラストレーターやデザイナーもいて、気候変動、テクノロジー、情報や権力の不平等といったテーマに関心を持つ読者へ、最適な形で情報を届けるために一緒に動いています。猛暑と森林破壊が気候危機とどうつながるのか、といった新しい論点を掘り下げる姿勢が、読者の信頼につながってきました。
「こうしたテーマは、報道から完全に消えていたわけではありません。でも切り口がすごく限られていたり、アプローチが不十分だったり、ひどいケースだと加害者の視点で語られていたりしました」アクーニャ氏は言います。「私たちの独立性は不可欠です。私たちの報道は、地元の有力エリートと結びついていないからです」
El Surtiチームが、30歳未満の読者にも届いたイラスト版(ビジュアル報道)を披露。写真:El Surti
多くのメディアが企業の独占に支配されてきたこの地域で、El Surtiは同業他社が見落としがちなテーマを総合的に捉え、行動を促しています。最近バズった記事では、カナダ企業Bitfarmsが運営する暗号資産マイニング施設の騒音公害が、パラグアイのビジャリカの住民にどう影響したかを取り上げ、住民が法的措置に踏み切れるだけの証拠を積み上げました。いまこの件は、パラグアイで暗号資産マイニング施設を相手取った初の裁判になる可能性が高いです。
2024年に始まったIFPIMの助成金のおかげで、El Surtiは新しい戦略を試しながら、こうした調査報道を継続できています。さらに、対面イベントの開催や、新しいサブスクリプションモデルの導入にも力を入れています。SNSのアルゴリズムが変わると、新しい投稿が読者に見つけられにくくなることがあるからです。
ただ、資金面の支援には複雑な法的課題も伴います。特に、パラグアイの制限的な外国代理人法をめぐっては、市民社会組織や人権団体が、資金規制が過度であることから「反NGO法」として機能していると指摘しています。
「IFPIMの支援がなければ、私たちの活動はとても難しくなります。パラグアイには、私たちがやっているタイプのジャーナリズムを支える存在が多くありません」アクーニャ氏は言います。「政治家や当局から“活動してほしくない”と言われることもよくあります。その結果、読者が情報にアクセスしづらくなる。要するに、人々の“知る権利”が狙われているんです」
El Surtiは、ローカルジャーナリズムのために声を上げてくれる支援者がいる限り、いま独立系メディアが直面している圧力にも耐えられると信じています。これからも、読者が「何を知りたいか」を問い続け、人々の暮らしを形づくるテーマを調査し続けていきます。
SNSアルゴリズムの変化を受け、オフラインでも読者に届くようEl Surtiが推進する対面イベントの一つ。アスンシオンで参加者が通りに集まる。写真:El Surti
Food For Mzansi:南アフリカ
南アフリカのメディアFood for Mzansiも、他では手に入りにくい超ローカルな取材で読者に寄り添う、ユニークな媒体のひとつです。
南アフリカの小規模農家は、240万世帯以上を占めているにもかかわらず、従来のメディアではほとんど取り上げられてこなかった存在です。
アイヴァー・プライス氏と共同創業者のコブス・ラウレンス氏は、まさにこのコミュニティを後押しするために、2018年にFood for Mzansiを立ち上げました。彼らが気づいたのは、農業報道の多くが商品市況や企業発表に偏りがちで、作物の育て方、病害の流行への対応、しなやかで強いビジネスづくりといった「現場で役立つ情報」が不足している、ということでした。
「農業は食料生産だけの話じゃない。雇用、起業、気候変動への適応力、教育、健康、そして社会正義にも関わっているんです」と、Food For Mzansiのマネージング・ディレクターであるプライス氏はGlobal Citizenに語りました。「読者の多くは、私たちの報道が自分たちの現実にまっすぐ刺さるから来てくれる。農業の仕事を目指す若者でも、ビジネスを良くするための実用的な情報を探している農家でもね」
南アフリカの小規模農家の多くは、国の地方部を拠点にしています。だからFood for Mzansiは、読者がいる場所に寄り添い、農業で生計を立てるために必要な情報を届けられるよう、機動力のある組織として設計されています。チームはIFPIMからの助成金の一部を、この重要な取り組みを続けるために活用しました。
2025年Mzansi Young Farmers Indabaで登壇者が質疑応答。Food For Mzansiがネット環境の弱い地域の農家に届くために行う対面イベントの一つ。写真:Food For Mzansi
「南アフリカの地方部では、今でも安定したインターネットや従来型のニュース媒体へのアクセスが限られています。だからこそ、その支援を使って、地域イベントや農家との交流、対面での知識共有の取り組みを通じて、現地での存在感を広げました」とプライス氏は言います。「そうした会話を重ねることで農業コミュニティとの信頼関係が深まり、主流メディアから置き去りにされがちな人たちにも重要な情報を確実に届けられました」
この媒体の「影響力」を示す強い例のひとつが、家畜の病気に関する報道です。ほかのメディアは感染拡大を発表するだけで、小規模農家が生計を守るために何をすべきかという支援や具体的な見通しまで踏み込まないことが多くあります。最近の南アフリカでの口蹄疫の深刻な流行でも、Food for Mzansiはあらゆる角度から継続的に報道し、記者が獣医の専門家と連携し、業界リーダーに話を聞き、リスク管理や農場を守るための実践的な戦略を共有してきました。
「私たちの報道は、バイオセキュリティ対策、移動制限、そして早期報告の重要性を、農家がよりよく理解する助けになります」とプライス氏は言います。「専門知識と日々の現実をつなぐことで、不確実な時期に信頼できる情報源として機能できるんです」
南アフリカで独自かつ不可欠な人たちに向き合っている一方で、Food for Mzansiも、世界中の独立系メディアを悩ませる課題を多く抱えています。地方の農家へ届けるには運営コストが高くつき、とりわけ言語やプラットフォームが分散した読者にリーチするのは大変です。このデジタル媒体は、ポッドキャスト、動画、ソーシャルメディア、イベント、そしてWhatsAppでの共同的な対話など、ニュースの形式を多様化することに投資してきました。彼らはこれからも変化に適応していきます。なぜなら、その報道には意味があるからです。
「結局のところ、私たちの野心は変わりません。農業を“報じる”だけでなく、アフリカ全体の農業の未来を積極的に形づくるジャーナリズムをつくることです」とプライス氏はGlobal Citizenに語りました。
いまの地域ジャーナリズムは機動力があるとはいえ、障害は次々に積み重なります。AIによる要約のせいで実際のニュースプラットフォームで記事を読む人が減り、検索エンジン経由のページビューや参照流入は落ち込んでいます。さらに、ニュースにアクセスする手段として、ニュースサイトやアプリよりも、ソーシャルメディアや動画ネットワークのほうが人気になっています。その結果、広告収入、購読、会員制度が減り、媒体の運営収益を押し下げてしまいます。
2025年Mzansi Young Farmers Indabaで参加者がJohn Deereのトラクターを試乗。Food For Mzansi主催、会場はプレトリア北部Lavender Kontrei Market。写真:Food For Mzansi
読者が、記者の取材を「要約するだけ」のプログラムに頼るようになると、ニュースに奥行きを与える大事な細部が失われてしまいます。そのニュアンスこそが、社会や世界の見え方を形づくり、自分にとって大切な課題に対して行動できるかどうかにもつながっているのです。
IFPIMが活動する地域では、ローカルニュース媒体が読者にとって唯一の「真実の情報源」になっていることもあります。ウクライナでは、助成金が直接的な資金として、媒体が持ちこたえ、文章・音声・写真による報道を通じて戦争の凄惨な影響を記録し続けることを支えています。パレスチナでは、この国際基金が資金面での支援を提供し、紛争を報じ続けているにもかかわらず生計を立てられない200人超のジャーナリストを支えています。
「ブラジルの課題はコロンビアの課題とは違います」とパテル氏はGlobal Citizenに語りました。「でも、どこでもニュースメディアが直面している根本的な課題は、ニュースメディアを成り立たせるための資金が減っていることなんです」
世界中のGlobal Citizenは、ローカルジャーナリズムを読んでシェアすることで、独立系メディアを支える側に回ることができます。メールマガジンを購読して、お気に入りの媒体に安定した読者を届けつつ、世界で何が起きているのかを追いかけましょう。可能ならメンバーシップを購入して、媒体に継続的な収益をもたらしてください。さらに、政府の代表者に連絡して、公共の利益のためのメディアへの資金援助を増やすよう働きかけましょう。そうすれば、どこにいても、誰もが事実にもとづく報道にアクセスできるようになります。
この解説記事はGlobal Citizenの助成金による資金提供を受けて制作されています。