カリーン・アワダッラさんは、自分のパスポートの国籍だけが「故郷」を定義するとは考えていません。
アワダッラさんは2歳の時からカナダで暮らし、今はトロント在住で、フリーランスのコンテンツスペシャリストとして、国内外の社会課題をテーマにしたコンテンツを手がけています。エジプトからの移民として、外に目を向ける大切さを強く感じています。
しかし、トロント大学で国際開発とジャーナリズムを学んでいた頃、彼女は自分が世界にどう貢献できるかが分からず、途方に暮れていました。
「学生の時は、なんだか無力さを感じるものです」とアワダッラさん(現在31歳)はGlobal Citizenに語ります。「実際にインパクトを出すのに、どれだけのことが必要か気付かされるんです」
しかし2009年、アワダッラさんはトロントのダンフォース・ミュージック・ホールで行われたGlobal Citizen CEOヒュー・エヴァンスによる「1.4 Billion Reasons(14億の理由)」の北米プレミアに参加しました。
エヴァンスはTEDトーク風のプレゼンテーションを行い、当時世界で極貧状態にあった14億人をどのように支援できるかに注目したドキュメンタリーの一部も紹介しました。
「ドキュメンタリーを観て、本当に心に響きました。会場にはヒュー・エヴァンスもいて、とても心に残るスピーチをしてくれました。私たちはただ、お互いにつながりを感じる必要があると気付いたんです」と彼女は語ります。
ここから、アワダッラさんはカナダで最も熱心なGlobal Citizenの1人となっていきます。
アワダッラさんはGlobal Citizenにいい印象を持ち、その後10年間行動を起こし続け、2012年にはニューヨークで行われた最初のGlobal Citizenフェスティバルにも参加しました。
「チケットが当たったんですが、誰も一緒に行くことができず、自分でバスのチケットを予約してニューヨークに行きました」と彼女は笑います。「人生で初めての1人旅でした」
セントラルパークのグレートローンで観客の中に立ちながら、アワダッラさんはフェスティバルの熱量に圧倒されました。そこでは世界のリーダーたちと音楽アーティストが共演し、男女平等や安全な水、健康、食・栄養などのコミットメントが次々に発表されていました。
「あの場で感じた熱は本当にすごかったです」と彼女は語りました。「発表されるたびに感動と勇気をもらえました。すべて、私たちが声を上げたからです」
そして2014年には、アワダッラさんをはじめとするGlobal Citizenが行動を起こしたことによって、カナダから特別な支援コミットメントが表明されました。
1990年代後半、世界の予防接種の取り組みが停滞し、低所得国に住む推定3,000万人の子どもたちが大切なワクチンにアクセスできない状況にありました。
発展途上国がワクチンプログラムの資金を維持するのに苦労し、製薬会社も貧困国へワクチンを提供する理由がなかったため、世界的な健康の前進は危機にさらされていました。
そんな状況で「Gaviワクチンアライアンス」は誕生しました。
2000年に設立されたGaviのミッションは、最も貧しい国に住む子どもたちの新しい、もしくは普及していないワクチンへのアクセスを向上させることです。公的部門と民間部門が協調関係を組む国際機関であり、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から7億5000万ドルの支援を受けてスタートしました。
2014年、Gaviは2016年から2020年の5年間で3億人の子どもたちへ命を救うワクチンを届け、500万〜600万人の命を守るため、75億ドルの補填資金集めを目指していました。
その目標を達成するには、予算の大きな国々からの新たな資金、そしてカナダの強いコミットメントが不可欠でした。
ここでGlobal Citizenの出番です。
Global Citizenは、国連の持続可能な開発目標、特に良質な健康と福祉を目指すグローバル目標3の実現に取り組んでいます。人々が健康でなければ働いたり、収入を得たり、経済へ貢献したりできません。だからこそ、健康の確保は貧困終結のカギなのです。
予防接種は、最も貧しい人が健康になるための最善の手段とされており、感染症を防ぎ、不要な死を避ける安全かつ効果的なアプローチです。世界保健機関(WHO)によると、毎年200万〜300万人の命が予防接種で救われています。

Gaviはこういったワクチンを届けるうえで重要な役割を果たし、カナダは2002年から支援を続けています。実際、2001年から2015年の間に、カナダ政府はGaviに5億1,300万カナダドル以上を直接拠出や革新的な資金調達など様々な形で約束・履行しました。自由党政権・保守党政権のどちらの時代も、グローバルな健康へのコミットメントが示されてきています。
2014年には、カナダは世界で子どもの健康に最も貢献する国の一つに躍り出ており、Global Citizenも2020年までそのサポート継続を期待していました。
Global Citizenのチームは、リザルツ・カナダ、ONEキャンペーン、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などと連携しながら1年がかりで舞台裏の調整をしました。元首相スティーブン・ハーパー氏、元国際開発・フランコフォニー大臣クリスチャン・パラディス氏、元外務大臣ジョン・ベアード氏のオフィスとも協力しました。2010年6月のG8サミットでは、ハーパー政権が「マタニティ・新生児・子どもの健康に関するマスコーカ・イニシアチブ」への国際的コミットメントを強く打ち出した、グローバルヘルスにおけるリーダーシップも注目されました。
2014年のGlobal Citizenフェスティバル開催に向けて、Global CitizenはGaviへの支援増額を各国首脳に求める署名活動を始め、2015年1月の補填資金会議へとつなげていきました。
「すべての子どもが健康な人生のスタートを切る権利があります。しかし、いまだに5人に1人の子どもが必要なワクチンを受けていません。これを正さなければいけません。Gaviワクチンアライアンスへの支援強化をお願いします。2020年までに3億人の子どもたちへの予防接種実現へ、ご協力ください」と、署名文は呼びかけていました。
アワダッラさんもその署名をしたのを覚えています。
「これは支援するしかないと当たり前に思いました」と彼女は話しています。「私たちはどこで生まれるか自分で選べませんし、住んでいる社会がワクチンへのアクセスを与えてくれるかどうかも選択できません。しかし、ワクチンが存在するという事実は私にとっては、それが人権であるべきで、特権ではないという意味なんです」
10月までに、Global Citizenから2万6,000件以上の署名が集まりました。
このキャンペーンは、Global Citizenにとってとても重要な転換点だったと、カナダのGlobal Citizen政策・政府関係マネージャー、ジョナ・カンター氏は語っています。
「このキャンペーンにより、カナダ内でのGlobal Citizen運動がさらに根付くことになりました」と彼は話しました。
この活動は、将来カナダがGlobal Citizenの行動に応えて果たすことになる約束、その土台にもなりました。例えば2016年にはエイズ、結核、マラリアと戦うグローバルファンドに8億400万カナダドル、2017年には世界ポリオ根絶イニシアチブに1億カナダドルの約束を実現しています。
2014年11月28日のフランコフォニー・サミットで、ハーパー首相はGaviへの5億カナダドルの約束を発表しました。
この決断はGaviの2015年補填資金会議直前のことで、特に意義深かったのは他の寄付国への期待を示したタイミングだったからです。カナダによる5億カナダドルの約束は、カナダのそれまでのGaviへの支援合計をほぼ2倍にしました。

さらに2015年1月、ドイツ、ベルリンで開催されたGaviの誓約会議でも、カナダは追加で2,000万カナダドルを誓約しました。
そして、こうした動きも、Global Citizenがカナダのリーダーたちに声を届けたおかげで実現したかもしれません。
「2014年にGlobal CitizenやGPPが作った流れが、カナダの思い切った発表へとつながりました。つまり、世界最貧国の何百万人もの人々に命を守るワクチンを届けるための資金が大きく増額したことです」と、Gaviの国際事業開発&ヨーロッパ戦略ディレクターのギヨーム・グロッソ氏はGlobal Citizenに伝えています。
カナダの支援でGaviは今期の補填資金サイクルで75億米ドルの資金調達目標を超え、2020年までに3億人の子どもたちにワクチンを届け、500万〜600万人の命を救う道筋ができました。
こうした政府の決定に関わった前任のパラディス大臣も、Global Citizenの行動を含む市民の動きが政府を後押ししたと語っています。
「あなたたちのような請願や活動があったから、政府へしっかりメッセージが届きました。すべてはあなたたちがやったことから始まっています。動員です。政府だけではこういうことはできません。能力もリソースも足りないのです。あなたたちが行動を起こしてくれたこと、心から『ありがとう』と伝えたいです」と彼はGlobal Citizenへの感謝を話しています。

2018年末までに、Gaviは世界最貧国の子どもたちの約80%に基本的なワクチンを届けました。2000年の設立以来、Gaviは7億6,000万人以上の子どもにワクチンを届け、1,300万人以上の命をポリオ、はしか、ロタウイルス感染症、肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルスなど多くの深刻な感染症から救ってきました。これらすべて、グローバルな約束があったから実現できたことです。
カナダだけでなくオーストラリア、ドイツ、ノルウェー、イギリス、アメリカなどのコミットメントは、現地でのヘルスプログラムを支えるために使われています。例えばケニアのNGO、ケニアエイズNGOコンソーシアム(KANCO)は、健康の提唱や事業運営をする東アフリカ拠点のメンバー組織です。
Gaviのサポートのもと、ナイロビの非公式居住区内のヘルスサービスを強化しながら、KANCOは今年8月初旬にコミュニティヘルスボランティアと一緒に支援プログラムを実施しました。彼らは、ナイロビの非公式居住区内の予防接種率が低い2つの地域を訪問しました。
その2日間、早朝からヘルスボランティアたちは戸別訪問を行いました。その後、住民たちは職員が健康教育とワクチン接種を行うセンターへと足を運ぶよう促されました。地域リーダーも住民に向けて話をしました。

「この地域はワクチン接種にとっても重要ですし、成長をモニタリングするためにも大切な人たちです」とナイロビ郡保健ディレクターのルシナ・コイオ医師はGlobal Citizenに語りました。「子どもたちにきちんと会いに行くことこそが、本当に大事だと思います」
こうした支援プログラムなしでは、多くの人たちはそもそもワクチンにアクセスできなかったかもしれません。
コイオ医師は特に5歳未満の子どもたちにアプローチする重要性を強調しています。予防できる病気から守るだけではなく、結核などの疾患スクリーニングや、成長や健康状態のチェックをすることもできます。母親たちにも声をかけて、追加の情報提供をしたりすることもできます。
公式支援日の5日前から、チームは学校など拠点を準備し、ボランティアは家々を回って予防接種の大切さを地域に伝えていきます。
「コミュニティにヘルスワーカーがいなかった頃は、インフルエンザのような病気がそこら中で広がっていました」と、コミュニティヘルス職員のスーザン・ワンジル・シャランブさんはGlobal Citizenに語ります。「しかし、こういった病気を防ぐワクチンが導入されてからは、子どもたちをヘルスセンターに直接連れて行くようになり、患者が大幅に減りました」
ワンジル・シャランブさんは、こうしたサービスが重要なのは、この地域には近くにヘルスセンターがなく、健康サービスを届けるのが本当に大変だからと教えてくれました。みんな遠くまで行くのが大変だと文句を言い、苦労に見合った価値を感じていないのではと話します。
しかし、彼女がGlobal Citizenの取材を受けた日には、仮設センターに人が集まっていました。そこで彼女たち職員は、地域の人と直接話してワクチンにまつわる噂を解いたり、リスクの高い住民の健康状態を確認したりできました。
こうした取り組みは、ナイロビの最も脆弱な地区にいる、いまだに支援を受けていない子どもたちにアクセスするため、地域で声を上げて社会に働きかけるためのものです。
地域の若い母親であるミルドレッド・オンディサさんは、支援の日に子どもに予防接種を受けさせるためにセンターを訪れました。
「赤ちゃんに予防接種を受けさせないと、どんな影響があるか見てきました」とオンディサさんはGlobal Citizenに語りました。「体が麻痺したり、健康ではなくなって、世話がすごく大変になります」
オンディサさんは、はしかやポリオといったワクチンで防げる病気だけではなく、結核などの病気からも、子どもを守りたいと思っています。そして、子どもがずっと元気に過ごせるようにしたいと願っています。
「私も赤ちゃんの時に予防接種を受けたから、こうして健康なんです」と彼女は話しました。
2018年12月31日現在、カナダは2016~2020年の約束である総額5億2,000万カナダドルのうち、3回分の分割支払い(計3億2,000万カナダドル)をすでに行っており、ナイロビで行われているようなワクチン普及活動を支えています。残りの2回分は2019年と2020年に支払われる予定です。
2016年から2020年までのGaviによる支援で、合計3億人の子どもたちが予防接種を受けられる予定で、2018年末までにすでに1億2,700万人が接種済みです。Gaviの見積もりでは、こういった予防接種によって最終的に最大600万人の命が救われる見込みです。
しかし、2019年ももうすぐ終わりで、次のGavi補填資金会議までもう1年を切っています。
2020年6月には、イギリスが次のGavi補填資金会議を開催し、世界のリーダーたちにこれまでの成果をさらに広げるため、新たな資金提供を呼びかけます。そしてカナダにも引き続きこの取り組みを応援してほしいと考えています。
「カナダは歴史的な「Thrive」コミットメント(女性と女の子の健康の10年計画)を6月に発表し、これからも長く世界の健康分野をリードし続けると証明してくれました」とカンター氏は話します。「政府は性・生殖に関する健康と権利の重要性を強調していますが、ワクチンが子どもの成長、そして弱い立場の地域や国が発展するためにも不可欠だということも、Global Citizenのみんなと一緒に強調しなければなりません」
来年のイベントでは、2021年から2025年の資金集めを目指します。これが、2030年までにグローバル目標3を実現できるかどうかが決まる大事な瞬間になります。
2014年からGaviは資金を活用して多くのことを達成してきました。しかし、根本的なメッセージは変わりません。世界がワクチンに投資しないと、健康と福祉のグローバル目標3だけでなく、ほとんどのグローバル目標の実現は難しいです。予防接種には、貧困を減らす直接的な効果があります。ワクチンで守られた健康な子どもたちは学校に通い、大人になったときに生産的な人材として活躍できますし、親も病気の子どもの世話から解放されて働くことができます。健康な子どもたちが成長して、社会にしっかり貢献する大人になることができます。

保守党・自由党、どちらのリーダーシップの下でも、カナダはグローバルな健康への取り組みを一貫して応援してきました。今年の秋には選挙もありますが、Gaviへの資金支援を求める声はこれからもずっと大切です。
保守党の下院議員、マイク・レイク氏は、Global Citizenと協力してワクチンの重要性を広めるため、イベントの参加や、世界予防接種週間にナショナル・ポストに意見記事を書いたりしてきました。2014年に保守党が行った意思表明を重要なものだと支持し、この先また同じような約束がなされることを願っています。
「選挙の結果に関わらず、来年もカナダがGaviと世界ポリオ根絶イニシアチブへの強い支援を新たに約束してくれると信じています」とレイク氏はGlobal Citizenに語りました。「このキャンペーンでは、みんな同じチームですから」
人口増と移動、気候変動、社会の不安定さ、何度も起こる感染症の流行といった複合的な影響で、この20年で世界が作ってきた進歩が逆戻りしそうになっています。今こそ、気を緩めるのではなく、国々が病気を防ぎ続けて、地域を守り発展できるよう、もう一度しっかり取り組む時です。
Gaviが目標の資金調達を達成するため、そして世界が2030年までにグローバルな健康の目標を実現するには、世界中の国やGlobal Citizenのサポートが不可欠です。
「私たち一人ひとりが、意思決定者に対してこうしたコミットメントを約束して、ワクチンをみんなに届けましょうと働きかける責任があると思います」とアワダッラさんは語りました。
そのために必要なのは、みんなで声を上げることです。
「みんなで行動すれば、その力は何倍にもなると私は信じています」と彼女は語ります。「そのことをGlobal Citizenで学びました」